横浜市大倉山を拠点に活動する芸術家の東山佳永(とうやまかえ)さん。
彼女の創作活動を支えるのは、子どもの頃の感性。そんな東山さんは、いったいどんな子ども時代を過ごしたのか、いまどんな思いで子どもたちと寄り添っているのか、お話を伺いました。

 都内近郊の幼稚園や保育園など、あらゆる場所で子どもたちと一緒に身体のワークショップを行う東山佳永さん。空間やコミュニケーション、音楽や布紙などあらゆる素材や手法を用い、身体表現を主軸に活動する芸術家です。

 東山さんが踊りを始めたきっかけは、子どもの頃にテレビで観た新体操競技。
「選手の身体の曲線や、動きの軌跡が綺麗だと感じたんです。踊ることへの興味よりも、『空気にお絵描きしてる!』という衝撃が大きくて」 

 その感動をいまでも大切にし続け、「場所」からインスピレーションを受け、自然物をテーマに独自の世界を創りあげる東山さん。「舞台」と「観る人」、「自分」と「他人」、「子ども」と「大人」。あらゆる境界線を揺蕩いながら、物事を俯瞰でとらえる力は、子ども時代のこんな感性が基になっているようです。

「椅子にひっくり返って座って、世界を逆さまに眺めるのが好きだったんです。どうして空は頭の上にあるの? 足元にあれば、空を歩くことだってできるのにって、宇宙の構造に疑問を持っていて。そんなふうに、当たり前のことを当たり前と思えない子どもでしたね」 

 けれども、小学校に上がると、大きな違和感を覚えたといいます。「勉強する教科や時間が決められていることや、”子どもらしく‶遊ぶこと、みんなと同じ表現をすること。そんな『枠』にはまってしまうのが嫌だったんです。ここで自分の感性を失ったらダメだと、小学生ながらに直感して(笑)。学校では『枠』のなかで優等生として過ごしつつ、密かに、自分の大切な感覚や感性を『透明な箱』にしまっていました」

-心豊かな子どもを育てたい-

 大学時代は舞踊を学びながら、さまざまな分野の表現を経験し、自分に適した表現方法を模索します。卒業後、芸術活動を開始しますが、日本では芸術はまだまだ日常から切り離された存在。「芸術家として生きていくことは簡単ではない」と悩み、「芸術で何ができるだろう」と考えたことが、現在の活動のきっかけとなりました。 

「誰しも、生きていくには想像力が必要だと思うんです。どうしたら日々はもっと楽しくなるか、どうしたら周りの人を悲しませずに済むか。そんな想像ができる大人が増えれば、社会はもっと良くなるし、戦争だっていつかなくなるんじゃないかと。芸術で社会に貢献できることがあるとすれば、その基となる心豊かな子どもを育てることだと考えました」

-芸術家として子どもたちに寄り添う-

 その想いを持ちながら作家活動をするなかで、保育施設などで子どもたちへのワークショップを依頼されるように。そして東京都町田市にある「しぜんの国保育園」と出合い、2014年から2年間、園内にあるシェアオフィス「small village」に入居し、子どもたちとより密接に過ごす日々を経験しました。園での活動を始めたことで、東山さん自身に心境の変化はあったのでしょうか。 

「芸術家としての覚悟ができた気がします。なにより、子どもたちと接することで、心の中にしまっていた感性や感覚を確認しているように感じます。『透明な箱』をひとつひとつ開封しているような日々でした」 

 また、ある使命感も抱くようになったといいます。それは、かつての自分と同じように「枠」のなかで起こる個の制約と自我との間で揺らぐ子たちをサポートすること。 「子どもの頃に出会った画家の先生に言われたんです。私の描く絵はいつも線が薄く、色も消えそうなくらい淡いけれど、そこがいいところだから無理して色を濃くしなくていいんだよ、と。それがすごく嬉しかったんです」

 大人の都合や価値観に押しつぶされそうな子どもにとって、個性や感性を受け止めてくれる存在はとても大きい。

 「こうしていまも私が自分の表現で活動を続けていられるのは、あの先生のような大人に出会って、認めてもらえた経験があるから。私も日々の活動を通して子どもたちに丁寧に接し、個性を認めてあげることで、その可能性を広げていきたいですね。それが子どもたちと、その未来のために私ができることだと思っています」

 そんな想いをもち、2016年から横浜に拠点をうつして、小学生の放課後を創造するプログラム「まちの寺子屋」を企画。子どもたちと過ごす新たな時間と場所づくりに挑戦しています。

まちの寺子屋では、月替わりでテーマを設定。リーダーたちがいろんな角度からそのテーマを解釈し、ワークを行ないます。自然豊かな公園が活動の場であるのも魅力のひとつ

□東山佳永/kae touyama
場所や土地の声を汲み、ものごとの隔たりを溶かし繋いでいくような活動で独自のスタイルを築く。あいちトリエンナーレ等の芸術祭や企画に出品。東京都庭園美術館「透明になるためのプラクティス」など、ラーニングプログラムの考案、企画、舞台映像出演、振付/演出、朗読/文筆、WS他、幅広く活動をしている。

□まちの寺子屋/Machi no TERAKOYA
小学生を対象とした豊かな放課後を過ごすためのプログラム。感性と感覚を存分にひらいて学び、遊ぶ。身体・自然・造形・空間の4組のリーダーと月一回のゲストリーダーが子どもたちと一緒にその月のテーマに対して様々な視点を知り、取り組んでいく。http://ookurayamakko.blogspot.jp/